2019年2月1日

半年間のアメリカ滞在の終盤、帰国する直前のニューヨーク。冬の夜。
この街の地下鉄やバスは24時間休むことなく走り続け大都市の基盤を支える。
地下鉄の独特の匂い-滞留する人の体臭と都市の澱んだ空気そして地下を流れる水の微かな潤い。
おそらくあの日は帰国まで数日となりながらも時間を持て余していた。すでに多くの劇場、美術館、ギャラリーに足を運び、それらも日常の一部と化していた。瞬間瞬間に行き先を決めて一日中街を歩きウインドウショッピングをした日の帰り。

①②③系統の地下鉄線が通るチェンバース・ストリート駅のホーム
彼はホワイト色の壁を背にし、手にはエレキ・アコースティックギターを持ち歌っていた。


-Hi. …….Can I dance with you?

I don’t think it good idea. Cause people through here.

-OK, I do dance front of wall. I don’t making stop people.

hummm.

怪訝な顔を見せながらも彼は歌に戻る。
地下鉄の駅は本当に気持ちよく音を響かせる。

彼に向かって一方的に宣言した通りに壁を背面にしバックパックを下ろし、羽織っていたコートをその上に置く。ユニクロの白のヒートテックにジャージという出立になる。服装の致命的に鈍い組み合わせに気づく余裕はすでにない。開幕の状況は最悪。それでもセッションは始まる。

結局、彼とどのように打ち解けていったかを記述するのは難しい。非常に不可解な時間だった。
二人は壁を背にし、ホームで電車を待つささやかだが絶対にスキップすることのできない退屈を味わう人々と対面してパフォーマンスを続けた。

パフォーマンスの終わりは彼の歌い終わりだった。彼と視線が合いダンスも退く。
Thank you. Thank youuuuu.!
通りかかった何人かがドル紙幣を彼のギターケースに落としていく。
そのうちの一枚をこちらに渡す。

This is yours.

-No,I don’t take it.

No. When you talked me, I already finished up. But you started dance. People look us. So, this is yours.

-Oh, thank you. I’m Kenta.

Atom.
即席の戦友との名前の交換。
見知らぬ他者同士の握手。
2度と会うことはない相手に向かって言う「またどこかで会おう」の言葉。

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コメント

  1. 彼の歌の一部はまだここで聴ける。
    https://youtu.be/cMkBRE6at0s

    出会った夜から、出会ったことのない夜に向けて旅を始める。

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