2022年11月4日

大阪 公園

紅葉が咲く公園のベンチ。
老夫婦が弁当をゆっくりと食べている。

-お父さん、お茶いる?
-いや、ええよ。

-こんにちは、すいません。あのー。僕、道で会った人と踊るっていうのをやってて日本のいろんなとこを回って、でーあのー、こう指揮みたいなのをしてもらってそれに合わせて踊るっていうのをやってて

-はい。

-もし、時間よかったら三分ぐらいで大丈夫なんですけど、ちょっと一曲だけちょっとやってもらえないでしょうか?

-なにを、、、?

-あ、なんか指揮みたいなのをしてもらって、で僕がそれで、あの、合わせて踊るっていうので作品を作ってて、それで、もしよかったら。

-(三拍子の指揮をしながら)こんなん?

-あー!うん、なんでもいいんですけれど、手のなんかサインみたいなのを送ってもらってそれで。

-うまくできるかいね。
-なんて?
-この人がね、私の指揮で踊らせてくださいってね。言っとるんよ。
-え?
-指揮者になってって。踊るから。
-踊るからってお前、なんじゃそりゃ。

-ははは。

-ちょっと待ってな。

-ははは、すいません。ちょっと一曲お願いします。

ダンサーは背負っていた荷物を下ろし、スピーカーを取り出す。

-どこ?どこでやればいい?

-あ、そこに座ってもらってたので大丈夫です。
これをたくさん行って、本を作ってて。あの、全然意味わかんないと思うんですけれど、再来年にこれを元にした本を作るんです。

-そうなんや。

-記録のために映像撮影してもいいですか?

-ほう、うん。あー大丈夫。

-すみません、ありがとうございます。

少し離れたテーブルの上にカメラを設置する。

-きれいに撮ってよ〜!

-はい!紅葉もきれいですよ!

-お父さん、ここ座り。
-ええよ、わしは。
-写真撮って本に載せたげるって。
-本?

-すいません。よし、曲がだいたい三分くらいあるんで。自由にこうやって手を振って、指揮してもらえたら。

-はーい、はいはい。(弁当を片付けながら)ものが映らんようにしとかなね。

-あー、すいません。ありがとうございます。

-1、2、3。三拍子と四拍子どっちがええかいね。

-あー、途中で変えてもらっても大丈夫で、まずリズムを取りやすい方で。

-1、2、3、4でいこうか。ははは。

-なんか止めてもらったりとかしてもよくて。

-あーそうなんや。あはは。(カメラを見て)きれいに映ってる?

-はい、この辺の紅葉と一緒に。

-座ったままでいいですか?よう分からへんけど。

-はい。座ったままで大丈夫です。

女性の旦那さんはベンチから離れ、公園の桜を見に歩いていく。

-指名手配かかってないからどこに出してもらっても大丈夫。

-あーははは。僕も、今のところ大丈夫です。

ジムノペディ No.1をスピーカーから流す。

-こっち?行くよ、せーの。もうやって大丈夫?

-はい、大丈夫です。やってもらって。

-1、2、3、4。1、2、3、4。ははは、ごめん。

-いえ、大丈夫、大丈夫。

笑いながら四拍子を取る女性。

-せーの、三拍子。

三拍子に切り替える。

-さん、びょう、し。さん、びょう、し。
1、2、3。1、2、3。

そのまま四拍子と三拍子を交互に混ぜ、その度に「せーの、三拍子/四拍子」と拍をとりながら話す。

-いつ終わったらいい?ははは

秋の終わり、昼下がりの公園で祖母ほど歳の離れた女性の指揮を受けながら、孫ほどの年齢差のダンサーは踊る。

曲が終わる。

-終わった?

-はい、終わりましたね。

-ははは、結構長いねぇ。
酔いがまわるやん。

-飲んではったんですね。

-そう、だから、まわるわ。

リピート再生されるジムノぺディを止める。

-ありがとうございました。お父さん、どこか行っちゃった。

-呆れて逃げたわ。あははは。

-ははは、逃げちゃった。

-指揮もとられへん言うて。

-ありがとうございます。よく来られるんですか。ここの公園には?

-あ、たまーには来るけど。ちょっと遠いから、ここまで来るのは。だから。そうやな、春に来てから来てないかな。桜の時期と紅葉の時期と。今日、いい天気やったから、お弁当外で食べられそうやねぇって。

-あ、お弁当作ってはったんですね。

-お弁当、スーパーで買って持ってきてん。

-へー。

-そうなんだよ。

-お弁当食べてはるなぁと思って。お弁当食べ終わったら声かけようと思って。

-そうなんや。

-ハム買ってきてそれをそのまま食べようって。ほんでビール買ってきてな。ほんで、今からまた1時間くらいかけて帰る。

-あ、そんな遠くから?

-ううん、まともに歩いたらどのくらいかかるんやろう。やけどあっちに寄ったり、こっちに寄ったりして帰るから、1時間くらいかけて。

-僕もたまたま近くのしも、、かみしんじょう、、、?から来て、しもしんじょうまで行こうと。

-あーそうそう。下新庄と上新庄とあるけど、どっちの駅やったんやろね。

-上新庄からきたんですよ。初めて降りて。

-そうなんや。上新庄からここまで歩いた?

-歩いてきました。どこ歩いてきたのかよく分からなかったけれど。

-ははは、そうやねぇ。私らはそれこそ、上新庄の駅の近所から来たんやけど。

-あーそっかそっか、川の近くですよね。

-川の、川からだいぶあったかな。ごめん、私地理はあかんねん。

-ははは。あ、(少し離れた場所にいるご婦人の旦那さんを見て)お父さん待ってはるかな?

-いやいや、あそこで写真撮ってる。楓を撮るとかいうてるから。

-あー、そうか、楓か。僕、京都から来ててまだ京都は紅葉はそんなにしてなくて。

-あーそうかそうか。私らも、淀川区に住んでいるのだけれど大阪市やなくて、ここはもう吹田市言うのよ。

-ここは吹田市なんですね。

-上新庄過ぎてどこからが吹田市なんかな。地理はもう全然分からん。

-僕も初めて歩いて、もう全然わかんなかった。へー。

-お父さん、男の人って結構知ってるよ。なんかしらんけど。私は南と北が分からんけれど。

-いや、大阪ほんとわかんない。

-いや、大阪だけやなくてもう全体わかんない。南と北わからへんやんいうて。

-ははは、へー。

-そうなんよ。白地図大嫌いでな、子供の頃。あの、白地図あったでしょ、何県で、県庁所在地はどこで。

-あー、ありましたね。

-日本地図書いてあって。もうあれ大っ嫌いで。それからもうずーっと引きずってんな。もう70年。

-あ、もうそんなに?

-そうそう。もう70年過ぎた。しゃべりだけ達者なおばあさんじゃけん。

-いえいえ、ははは。へー、そっか。今は、お仕事とかも引退されて?

-あーそうそうそう。今は主人も仕事終わって、娘がね、お父さんまじめ人間やったからあのー仕事辞めたら何もせんなったらボケるから何かさせなあかんよって言よったら、地域のボランティアぜーんぶ引き受けて一人忙しいんです。

-え!すごい。掃除からはじまって、いろんなことを。

-区役所がらみ、消防署がらみ、学校がらみ、地域がらみ、全部して。学校は10年くらいしてるんかな。仕事が終わって上新庄に帰ってきたもんやから。もう10年ちょっとになるけど、半年経ったくらいから地域の人に入れてもらって。二人してなんもせえへんかったらボケるでいうて子供たちが心配しよって。

-ははは。

-それはそやなって。入れてもらいましょ、いうて入れてもらったら、結構元気やったから、みんなが誘てくれはって、誘ってくれはったら断るのができへん人やから。だからあっちもこっちも必要で、今えらい目におうてる。ははは。

-へー。じゃあもう、日々忙しく。

-そうそうそうそう。だからもう、コロナでちょっとね、活動が止まったから休んだけど、動き出したよ最近。2ヶ月くらい前から。だから、旅行もあるしカラオケも行ってるし、体操もしてるし。

-え、あの朝のラジオ体操とかのことですか?

-あー、知っとるかな?年寄りがね、30分くらい動画を見ながら、手ふったり、足ふったり。

-あー、公園とかでやってはりますね。

-そうそうそうそう、今それが、区の方針で、なんていうんかなしてくださいみたいなんで援助もしてくれて。だからそんなんで、忙しいんです。

旦那さんが戻ってくる。

-あ、お父さん、ここから下新庄の駅まで歩いたらどれくらいかかる?初めて上新庄降りて歩いてきた言うてはる。
-下新庄の駅、この、あれよ川を渡ってやから。
-何分くらいかかる?まともに歩いたら。30分くらいかな。
-いやぁいや、10分くらいで行く。

-このまま、吹田越えたらどこ行くんですかね?

-え、どこ?
-吹田越えたら、豊中もあるし、茨木もある?
-どっちもいけるで。
-吹田越えたらいうてはるねんけど。
-吹田越えたらあれや、茨木や。

-そうか、茨木になるのか。

-(奥さんに向かった)行こか。
-行きますか。

-すいません、ありがとうございました。突然に。

-いえいえ、気ぃつけて。

-あ、なんもないんですけど、あのーこれ。名刺。(バックパックの中から名刺を探す)
ありがとうございました。(名刺を渡す)あのこれ、シールになってる名刺なんですけど、去年茨木で作品作っててそれで作ってもらった名刺です。

-健太っていうの?

-うちの息子、けんじです。

-え!健康の健?

-そうそう、健康の健。

-ありがとう。

-ありがとうございました。

-どうも、頑張ってね。
-カメラ忘れんように。

-あーはい、ありがとうございます。あの、上のお名前伺ってもよろしいですか?

-ふ、く、や、ま、といいます。

-あー、ありがとうございました。(手を振る)

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