2021年4月11日

大阪 私設電鉄の駅  西口前のスペース 21:00 

駅の改札に続く2階の立体歩道から階段を降りた場所にささやかなスペースがあった。
自転車置き場が隣にあることから察して、人と自転車の両方がすれ違うことのできるスペースを確保しているのだろう。その場所で二人の男性が床に座って話している。一人は淡い色のジーパンに青色の半袖と赤いナイキのスニーカー、片方は深い茶色のパンツと黒い長袖の Tシャツとアディダスの黒いスニーカー。
床にはスピーカーが置いてあり、音楽が流れ始める。二人に聴こえるぐらいの音量でラップする英語の歌詞が聴こえてくる。

-初めまして

初めまして

-僕、いろんなところ回ってストリートで出会った人とセッションするってことやってて。よかったら一緒にやってもらってもいいですかね?もし、よければ…..

おお、うん。いいですよ。

-ありがとうございます。黒田って言います。

え?

-あ、僕、黒田って言います。


あぁ、黒田くん。KEINって言います。

僕はKantaです。

-よろしくお願いします。

3人はリズムをそれぞれで取りステップをずっと踏んでいる。

すごいな。


Kantaさん:どこから来たんですか?

-京都から来ているんですけどー。そうですね。京都に住んでて今。

Kanataさん:それでいろんなとこ巡って?

-そうですね、本当は全国いろんなとこ行きたいんですけど、なかなか行けなくて。
なんか、いつもセッションやる時とかってどういう感じで?

KEINさん:基本二人で練習することが多くて、ずっと踊り合ってるみたいな。

-えぇ、めっちゃいいですね。
ブレイキンですか?

KEINさん:はい、僕らは。

KEINさんがステップを始め、そのまま床の動きへと繋げる。
彼が最初に始め、Kantaさんはそれを見て頷いている姿から、彼らとのセッションは各自のターン制で踊っていくことを察する。

1ターン目

KEINさんは床に低い姿勢をとり足を複雑に絡める、通す、抜くと、フットワークを駆使しその隙間に身体を宙に投げ出して、また床へと戻ってくる。時折、フットワークが手に変わって、身体の天地が逆さまになりながら足が空中で更に絡む。そのまま立つ姿勢に戻り一瞬身体を静止したあと、歩いて後ろへ戻る。

次に出たのはKantaさんで、ズボンのウエストを手で掴む格好でなだらかにステップを始める。ステップに勢いがついてくるとそのまま地面に手をつき駒のように回りながらステップを踏む。身体の向きが一時ごとに変化する。床への接地点を手から背中に変え、足を空中で絡ませる。半身を捻って立ち上がり後ろへ戻る。

KEIN:おぉ、ナイス。

次は自分の番だと手を汗ばませながら前に出る。身体を波打たせながらリズムを取り腕から手の先まで繋げていく。ゆっくりと床へと身体を落とし、彼らのようの足捌きを真似て床を移動しまた立った姿勢を取り後ろへ下がる。

Kanta:えぇい。すばらしいな。(手を3度叩く)

2ターン目

立体歩道からイヤホンを耳に着けた男性が携帯電話を操作しながら降りてくる。そのまま3人の間を通り抜けていく。

KEINさんがその姿を見送り、中央にステップを踏みながら出る。足を大きく振って半回転して床へと沈む。
階段を降りてきた人がもう一人、足早に通り抜ける。
KEINさんは床から大きく跳ね上がり、手を床につけて大きな回転を始める。途中で足が垂直になり、そのまままっすぐ床へと身体を落として静止する。もう一度足を大きく蹴って立った姿勢に戻り後ろへ下がる。

Kantaさんが前へと出る。
携帯電話で通話している女性が階段から降りてくる。ステップを踏んでいる彼を見て、少し距離を取った場所に移動する。通話しながらKantaさんを見ている。
別の人が階段から降りてきて去っていく。
Kantaさんは細やかにステップを踏みながら、その動きはどんどん軽やかになっていく。跳ねているようにリズムを取りながら足捌きは大きくなる。床へと跳び込み、上半身を着け片腕で足を支える。足を振り戻して立ち後ろへ下がる。

Kantaさん:あぁ、いいね。

通話していた女性は、彼の姿を見た後去っていく。
隣の駐輪場に人が立ち止まり、自転車を取り始める。
シャツ姿の男性が階段の裏で通話を始める。
階段から黒いスーツケースを持った女性が降りてくる。
-(手を3回叩く)そのままKantaさんの床での動きを真似した格好になる。高速で床を滑るように動いて立ち上がり身体を回転させながらKEINさんの方を向いて速度を緩める。彼のリアクションを見て立ち上がり後ろへ下がる。
その後ろをスーツケースを引いた女性が立ち去る。

KEINさん:やべぇ。ははは。

3ターン目


階段裏で電話していたシャツの男性はゆっくりと歩き出す。

KEINさんが両腕を広げてステップを踏む。笑っている。短い床でのフットワークの後、立ち上がって思い切りよく足を回転させる。
キュッと床と靴が擦れる音がしKantaさんがおお、と声を出す。鋭いフットワークでグリップが効かず足が滑ってしまったようだ。一瞬動きが緩んだKEINさんは、そのまま一気に床にしゃがみ込み飛び上がって身体を宙返りさせる。更に加速して足を回転させる、フットワークを踏みながら手を着く位置をどんどん変えていく。もう一度大きく足を回転させ立ちの姿勢に戻り下がっていく。

3人の背後でシャッターが閉まる音が聴こえる。

Kantaさんも手を広げながら、刻み良いステップで入ってくる。身体の方向性を自在に変えながら、身体全体の動作の速度を落とす。重くなった身体が床へと入り、足が振り上げられて上体が回転する。そして速度を上げながら背後へと飛び上がり左肩で着地する。頭を床に着けて身体をアーチ状にし左から右へと半円を描き、もう一度足が振り上げられて頭を越えて背中へ。その勢いで立ち上がる。んっと伸びをするように仰ぎ見た後、下がる。

KEINさん:うおぉ。いいね。

3人の背後で別のシャッターが閉まる。

前へと出る。身体の方向性を転じながら腕をなめらかに伸ばしリズムを取る。Kantaさんの前に立ち何かを持つような姿勢を取る。
Kantaさんもそれを真似し返す。
ニヤッと笑い後ろに倒れるように転がりその勢いのまま立つ。

KEINさん:ありがとうございました。
Kantaさん:ありがとうございました。
-ありがとうございました。すごい。(拍手しながら二人と握手する)

-なんかやっぱ熱くなりますね。

3人は壁際に座る。

Kantaさん:めちゃくちゃいい。

-いやー。
基本的にここでやってはるんですか?

KEINさん:いや、なんか週1、2回くらい。あとは寝屋川行ったりだとか。

-ねやがわ?

Kantaさん:寝屋川駅っていうのがあって、そこで練習したりしてます。

-へぇ。ここから近いところではない?

Kantaさん:じゃないです、じゃないです。もっと枚方とかの方。

-あー、あっちの方なんですね。

Kantaさん:あんま来ないですかこちらに。

-そうですねー。

Kantaさん:主に京都拠点で?

-そうですね、ベースは京都で。

Kantaさん:なんかYoutubeあがられたりだとかは?

-いや、全然なくて。

Kantaさん:あ、そうなんですね。

-なんか、バイトしながらダンサー。僕、普段やっているのはコンテンポラリーダンスっていうのやってて。

Kantaさん:あー。

-なんか意味わかんないやつなんですけど。

KEINさん:いえ、わかりますよ。

-なんか最近イベントとかって、ダンスの、あるんですか?

Kantaさん:最近イベントないなぁ。

KEINさん:2、3ヶ月に一回。

三人の背後でシャッターが閉まる。

-普段はもうちょっと頻繁に?

KEINさん:そうっすね。月一くらいで。

-けっこうこのあたりでもイベントあるんですか?

KEINさん:いや、ここら辺とかは全然ですよ。大体は市内とか。

-ここに来るまでにけっこう練習してる人いたなーって感じたんですけど。

KEINさん:大学生とか。大学が近くにあるので、大学が練習に使えなかったりして練習しに来てたりだとか。

-あーなるほど。じゃあ、ダンサー自体は数は多い?

KEINさん:ちらほらっすね。ここら辺は全然、練習する時は誰もいない。

-ここら辺は人は来ない?

KEINさん:そうですね。

Kantaさん:来ても3、4人くらい。

-普段、普段っていうか、そのなんかショーケースとかに出られてたりするんですか?

KEINさん:基本的にバトル。

-バトル。

Kantaさん:なんかイベントとか出られることあるんですか?

-いやー、もう全然なくて。一回、飛石でバトルに出たことがあって、すごい楽しくて。

Kantaさん:へぇ。

-一回戦負けだったんですけど。ははは。

Kantaさん:いやいや。

-そういうのってやっぱ梅田とか?

Kantaさん:心斎橋とか、難波とかですかね。

Kantaさん:むっちゃ、かっこいいですよね。

-いやぁ。えっとなんか、ああいう二人がやっていた動きやりたいんですけど出来なくて。(二人の動きを真似しながら)こういうのとかマジでやばい。

階段から足早に降りてくる人、そのまま去っていく。

-ああいう動きを練習する時とかってどういう感じで練習してるんですか?

Kantaさん:あーなんか、自分で動き作って、それを反復練習とか。あとはほんまにさっきみたいな感じでセッションして。

-あーセッションして。
基本的に練習する時一人なんで、誰かいると。

Kantaさん:あー楽しいっすね。

-なんかその、二人でチームみたいなの組んでる訳ではない?

Kantaさん:あー、じゃない、じゃない。僕は組んでないんですけど(KEINさんを見ながら)彼はすごいとこのチームで。

-へぇ。

Kantaさん:日本一のチームです。

-マジですか。
大阪の?

Kantaさん:大阪の。めちゃめちゃ格好良いっす。
    (KEINさんを指して)ははは、僕の師匠なんですよ。

-え。えぇ。めっちゃいいですね。

-近々、なんかパフォーマンスあったりするんですか?

KEINさん:近々。近々ー、んー何がある?

Kantaさん:バトル?

KEINさん:あーうん、まぁ、でもなんかゴールデンウィークとか、夏場くらいに予定されてるやつはあります。ほんまちらほらって感じ。

-KEINさんの入ってるチームは人数多いとこなんですか?

KEINさん:僕のチームはけっこう多いですね。多いって言っても10人とか。

-すごいですね。

KEINさん:みんなでも、仕事で忙しかったりとか。

-あー。やっぱダンサーの人って、仕事しながら、夜は踊ってみたいな?

KEINさん:そうっすね。

-そうですよね。

-半年間の制作をしているんです。道で出会った人とセッションして、それを9月に作品にしようと思っていて。いろんな場所に行きたいんですけど、あんまりここら辺のこと分かっていなくて。駅の周辺は行ってみようと思ってるんですけど。

KEINさん:ここより、もう一つの電車の駅の方がまだダンサー多いと思う。

-たしか、あそこの床って。

KEINさん:だいぶ荒いっすよね。

-ですよね。

Kantaさん:コンテンポラリーの動きやったらだいぶズタボロに。

-はは、グチュグチュに。

Kantaさん:いろんなジャンルの人いますよ。

ハイヒールで床を響かせながら女性が歩き去る。

-なんかよかったら連絡先交換してもらってもいいですか?

KEINさん:あーもちろん。

Kanta:ここじゃないんですけど、岸辺駅とか色々ダンサーもいますね。

-岸辺。私電ですか?

Kantaさん:JRかな。(携帯電話でGoogle mapの地図を指差しながら)あーここ。駅の上に歩道橋架かってて、そこで。

-そこでダンスしてるんですか。

Kantaさん:やってますね。めっちゃ広いんで。

-(携帯電話を操作しながら)何がいいですかね。Instagram?

Kantaさん:そうですね、インスタ。なんて調べたらいいですか?

-すみません、あんま使い方が分かっていなくて。

Kantaさん:インスタ開くと右下やつを。

-あ、これです。96kn。

Kantaさん:(Instagramを見ながら)あー、アーティスティックな投稿めっちゃされてますね。

-いや。
僕、もうめちゃくちゃ名前忘れやすくて、メッセージでお名前送ってもらっていいですか。

Kantaさん:ははは。

-お名前これですか?

Kantaさん:僕の名前はこれ。

-(KEINさんの前に移動し)すいません、いいですか。

KEINさん:もちろん。

-今日撮った動画、またお二人にもシェアしたいなって思います。

KEINさん:あー、ありがとうございます。

二人とそれぞれ握手しながら礼を述べる。

-またぜひ、やらせてください。

荷物を片付ける。

-声を掛けるかすごく迷ったんですが、断られちゃうかな、とか思って。一緒にできてほんとよかったです。
ありがとうございました。

バックパックを背負い二人に挨拶をしその場から離れる。

二人は床に座ったまま、携帯電話で次の音楽を流し始め練習を再開する。

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